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モントリオールの格式高いホテル、クイーンエリザベス。1969年、結婚したばかりのジョンレノンとオノヨーコが『ベッドイン』と称した平和活動を行ったのは、このホテルの1742号室です。

写真はホテルにあるクラシカルなフレンチレストラン『ビーバークラブ』。結婚記念日に行ってきたという友人夫妻に勧められ、当時は恋人だった今の旦那の誕生祝いに予約をしました。

重厚な内装と落ち着きある初老のサービスマン。ホストである私が安心していられるよう、そしてこの機会を最高のものにしようという気遣いは申し分なく、とびきりの料理と共に、とても印象に残りました。そんなひとときに料理の写真を撮るのはマナー違反と感じ、写真は撮っておりませんが、大きな塊で焼いてステーキのように厚切りで提供されるローストビーフは絶品。ここの名物でもあります。

誕生日への計らいに、デザートとは別に二人には充分すぎる大きさのバースデーケーキを用意し、写真を撮ってカードにして渡してくれたサービスマン。このような方は本当に貴重、いぶし銀の魅力をいつまでもここで守っていただきたいと思いました。

こうして素晴らしく楽しい時間を過ごした私たちでしたが、この後その空気は一転、夜の街を徘徊することになります。。

レストランを出てトイレに立ち寄り、今日つけてきたはずのダイヤのネックレスが無いことに気づいた私。すぐ彼にそのことを告げると、「探そう」と早足で歩き出しました。

もう夜の11時をとうに過ぎています。日本とは違い、落とし物を警察に届ける人が稀なこの地で、到底見つかるとは思えません。しかもワインをたっぷり飲んだ後、自分のことながら「歩きたくない」思いの方が強く、黙って諦めれば良かったと後悔しながら、小走りで「光るものはないか」と探し、彼を追うこと3時間。

結局どこにもありませんでした。

きっと、誰かが拾って「ラッキー」と思っていることでしょう。3時間も歩くと、誰にも拾われず、そのまま土にまみれ雪に埋もれどこかに行ってしまうよりはいいかな、という気になりました。

なくしたネックレスは、幸い誰かの形見などという特別なものではないと知り安堵した彼。それでも、その金額を聞いて惜しがる彼を逆になだめながら、タクシーを待ちました。

そのとき私が得たものは、お金では買えない感覚。
真夏でしたので二人とも汗だくなのに、私は清々しい気持ちになっていました。私のために一生懸命になってくれて、と、彼に対して小さな勘違いが始まったのもこの夜だったように思います。


 ※クイーンエリザベスは現在改装中。2017年6月にリニューアルオープン。